患者さまの「できる」を引き出す~NICD(生活行動回復看護)~
「看護・介護が変われば患者さまの人生が変わる」を念頭に、諦めないケアを実施しています。
※NICD(Nursing to Independence for the Consciousness disorder and Disuse syndrome Patient)
NICD(生活行動回復看護)とは
NICDとは、主に意識障害・寝たきり(廃用症候群)の患者さまが移乗・移動・食事・排泄など生活に関わる行動を可能な限り自分でできるように自立支援する看護技術におけるリハビリテーションです。身体調整看護技術・身体開放看護技術・生活行動再獲得技術の3つの要素からアプローチします。
NICDの症例紹介
ご家族から写真の使用許可をいただき掲載しております。
- 対象者
- 脳卒中後の後遺症で肢体不自由な患者さま
- 現状
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- ・目を開けている時間が短く、意思疎通が困難な状態
- ・ベッド上での生活が中心ですべてに介助が必要な状態
- 目標
- NICDを介入することになり以下の目標をたてました
- ・椅子に座れるようになること
- ・口から食事を食べられるようになること
意識を戻すために日光浴を行ったり、重力に対して姿勢を保てるように運動を日課にしました。
関節可動域の拡大を行い、ご自身で安定した座れる姿勢を保てるように取組みました。
行動記憶の誘発を行うことで、習慣で行っていた髭剃りなど「できる」ことを増やす練習を行いました。
多職種で嚥下評価・訓練を実施。摂取カロリーやたんぱく質等の栄養状態を整えました。
- 結果
- NICD介入の結果、患者さまに嬉しい変化がありました。
- ・姿勢を保持できるようになった
- ・車椅子・椅子に座れるようになった
- ・口から食事を食べられるようになった
- ・意思疎通ができるようになり、笑顔を取り戻した
3つのコア技術と7つの生活行動
- 1身体調整看護技術
- 生活リズム調整と栄養改善により、動ける身体の基礎づくりを行います。主に生活リズムの調整と栄養改善に重点を置いた看護技術により、「動ける身体」を整えます。
- 2身体解放看護技術
- 身体のねじれや拘縮を予防改善し、動くための身体をつくります。生活行動の基本となる抗重力姿勢(座位・立位)の姿勢を取るためにも、拘縮の予防・改善は欠かせません。
- 3生活行動再獲得看護技術
- 脳神経機能を活かした行動を引き出す看護技術です。五感を使って繰り返し動作を記憶させる・記憶を呼び戻す技術により、生活行動を回復させます。
NICDを読み解くキーワード
- サーカディアンリズム
- 人の体内時計は25時間周期。朝、陽の光を浴びたり、起きる姿勢を取ったり、決まった時間に食事をしたりすることで、体内時計が一日のサイクルに修正されます。 しかし、長期寝たきりでいると修正される機会を失い、本来の25時間周期のまま一日の生活リズムからずれていってしまいます。NICDではリズムを整え、日中の覚醒を良くしていきます。
- 栄養改善
- 意識障害や廃用症候群の患者さまにはサルコペニアという病態(筋肉量低下、筋力低下)が生じている可能性が高いことが知られています。 また、高齢や治療により、栄養状態が低下している方がほとんどです。NICDの目標を達成するために、動ける身体づくりが必要であり、栄養状態の改善は重要です。
- 離床
- 離床とは、ベッドから起き上がることです。正確には仙骨を立てて起き上がり、頭を頸椎の上に乗せた状態を言い、座位・立位といった姿勢となります。 この状態も、サーカディアンリズムを修正するスイッチの一つです。 また、離床するだけでも全身の筋力を使う全身運動となり、筋力をつくる活動になります。離床は全ての生活行動の基本となります。
- 姿勢
- 私たちは、生活行動のためにさまざまな姿勢を取っています。安静時には寝る姿勢、活動時には立つ・座る姿勢を取っており、活動時は重力に拮抗する力を使って姿勢を保っています。 しかし、長期間寝たきりでいることで、活動するための力(筋力)が弱まったり、筋肉が固くなって動かせなくなったり、ねじれや傾きが出てしまうと、日常生活を送りづらくなります。
- 用手的微振動
- 痛みのない拘縮改善のため考案された手技です。拘縮改善には筋膜の癒着を改善する必要がありますが、押す・伸ばすといった刺激による筋膜リリースは筋肉や骨が脆弱になっている方にとって危険が伴うことがあります。手のひらでリズミカルな振動を与えることは血管を拡張させ、リラクゼーションにもつながります。また消化・吸収の促進と便秘の改善にも有効です。
- バランスボールのムーブメントプログラム
- 身体運動の獲得と関節可動域の拡大を図る目的で開発された看護技術。バランスボールを活用し、運動と呼吸を組み合わせて楽しく安全に行います。バランスボールを使用することで運動動作の補助や増幅、色の視覚刺激も見込めます。一連の運動はストレッチ効果や骨や関節の並びを整える効果があり、発声や食事などに必要な呼吸筋に働きかける運動も可能です。
- 温浴療法
- 水圧の刺激や血管拡張による血液循環の改善、温熱効果による血管拡張・痛みの閾値の向上、筋力の変化、代謝の改善、コラーゲンの進展性(皮膚の丈夫さや筋肉のしなやかさに関わる)の上昇といった効果が期待されます。適正な温度や時間を守って温浴療法を行うことで、副交感神経を優位にし、リラクゼーションを促します。
- ナーシングバイオメカニクス
- 骨格や筋肉の機能と構造に従った自然な動きを活用した介助方法を行うことで、介助される側・する側ともに負担を最小限に抑えられます。そのためボディメカニクスを活用した介助方法は、怪我のリスクも抑えられ、安全面にも優れた方法と言えます。在宅復帰後のご家族の介助にも役立ちます。
研修について
NICDの研修生をエキスパート生と呼んでいます。エキスパート生は各病棟から1~3名選出され、半年間講師陣が少人数のエキスパート生に教育を行う体制を取っています。
© 2021 Sakurajyuji Fukuoka Hospital.